新宿区
早稲田鶴巻町556

03-3202-4007

11:30〜13:30
17:30〜21:00
水・第三火休

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【下の方に2006年11月の追記があります。】

だいぶ前、ポッカコーポレーションがウェブ上で
新しい飲料のアイディアを募集していたときのこと。

私が「蕎麦湯なんかいかがでしょう?」と応募したら
丁重な不採用のメールが来たことがありました。
絶対売れると思ったのに…。


「蕎麦湯にはルチンが入っていて血圧にいい」。


これはもう“信仰”に近いものがあります。
蕎麦湯は、ときに蕎麦そのものよりも崇められ、とくに
最後のどろっとした白い部分は仲間うちですら静かな
争奪戦になるほど。

いくら血圧によくても、それを塩辛い蕎麦つゆに入れて
飲むんじゃ血圧もクソもないんじゃ…、と思いますが、
“信者”にとってはそんなことは関係ありません。

しかも、あのどろっとした部分のほとんどは「打粉」と
いう名の小麦粉であるという事実すら、信仰の前には
意味のないことのようです。

“健康になるためだったら死んでもいい”という日本人
ならではの信仰といえるでしょう。


しかしこの店の蕎麦湯に限っては、信仰に値する
“本物”かもしれません。

普通の蕎麦湯は単なる“蕎麦のゆで汁”であるのに
対し、この店の蕎麦湯は別にわざわざ作ったもの。
つまり小麦粉ではなく蕎麦粉が主成分の正真正銘の
蕎麦湯なのです。

その味は、まっすぐという表現が思い浮かぶほど
シンプルなもの。たしかに蕎麦の味ってこんな味だった
と思い出させてくれるようなそんな蕎麦湯なのです。

また、希望すれば蕎麦つゆとは別の猪口を出してくれ
ますから、蕎麦つゆは自分で好きなぶん加減でき、
塩分を気にしながら蕎麦湯を飲むという矛盾を感じ
なくてすむのは精神衛生上いいものです。


さて、つい蕎麦湯の話から入ってしまいましたが、
ここの蕎麦は非常に端正なもの。

厨房にある石臼で挽いた蕎麦を十割で打っているの
だそうですが、十割特有のぼそぼそした感じがなく、
腰があってのど越しも良し。若干細めの切り方が
非常にきれいで、手打ちとは思えないほどです。
ただ、この時期の新蕎麦にしては香りが弱い気が
するのが少し物足りない感じですが、蕎麦そのものの
うまさはしっかりと味わえるいい蕎麦です。

一方、蕎麦つゆは醤油のコクというか深みのある
濃厚な味なのですが、塩辛いわけではありません。

鰹節のような強い味がないので不思議だな、と思って
いると、鮪節(しびぶしとも読む)と昆布で味を出して
いるとのこと。一階にある日本料理店「松下」と同じ
経営だからこそ作れる高度なだしなのでしょう。
好みはわかれるかもしれませんが、一度味わってみる
価値のある独特な味だといえるでしょう。


そのほか、この店は蕎麦以外も充実しています

驚きは「穴子の柔煮」。
しっとり、という言葉がまず出てくる柔らかな食感と
上品な味付け。だいたい穴子を煮ると広島のあなご
めしのように身がパサついてしまうのですが、それとは
同じ魚かと信じられないほどの違いがあります。

また、出汁巻きもまるで脱脂綿がたっぷり水を含んだ
かのようなぷるんっとした感触。ひとくち噛むと、どこに
隠れていたのかと思うほどのだしが広がります。

そのほか、「笹蒲鉾」も「さつまあげ」も自家製。
蒸してほかほかのままやってくる笹蒲鉾は、適度に
練り込まれた魚の身のゆるやかな結合が印象的。
デンプンをたっぷり含んだ既製品の、ゴムのような
感触とはまったく違います。

ひとつひとつが「蕎麦屋のつまみ」の枠を超えていて
昼にこうした肴を味わってしまうと、夜にまた行きたく
なってしまうほどの上質な一品一品。
魅惑的なサイドメニューです。


夜には3,675円、5,250円、7,350円のコースもあり、
昼も事前に予約すれば頼むこともできますが、やはり
いい日本酒とともにゆっくり食べたいもの。

蕎麦屋の蕎麦として、東京の蕎麦のひとつの頂点が
「しながわ翁」ならば、「松庵」のそれは日本料理と
しての蕎麦の、東京の頂点と言えるかもしれません。





早大正門からまっすぐ10分ほど歩いた場所
日本料理「松下」の2階

センスのいい店内には
14人がけと6人がけのテーブルが2つのみ



“本物”の蕎麦湯


蕎麦は非常に端正なもの


機械で切ったかのように美しい
やや細めの蕎麦


しっとりとたおやかな、という感じの穴子


あふれんばかりにだしを含んだ出汁巻き


蒸したてが出てくる自家製笹蒲鉾




【追記】

夜のコースを試してみました。

下の写真にある6皿+蕎麦のコースで3,675円。
その入念さと味の素晴らしさはもう感激もので、価格以上の価値がありました。
とくに「メジスモーク」というメジマグロのスモークはその香りのよさと味わいの深さが
素晴らしく、また「カニコロッケ」は小さいもののその身の中は蟹肉がぎっしりで濃厚な味。
コース途中で「安すぎる!」と叫びたくなるほどのものでした。

また、別注文のそばがきは、そのぷるんっとした感触がこれまで味わったことのないレベル。
1,260円と高価ではありますが、一度味わってみる価値はあります。

ほか、生ビール(グラス)2杯、日本酒2合を飲んでふたりで合計12,000円ほど。
そうそう、酒類の安さにも驚かされました。
月に一回は通いたくなる店です。                      (2006年11月)


前菜
右はイカの天ぷら
左はシコイワシの甘露煮か

メジスモーク
メジマグロを藁で燻したというだけ
あって素晴らしい香り

メジマグロの焼き物
同じ素材ながらここまで違うとは、と
驚かされる調理法の妙


治部煮
「じぶ煮」とは石川県の郷土料理
上品にまとめられていた

カニコロッケ
クリームコロッケではなく、
中は蟹肉がぎっしり

デザートは柿とリンゴ
豊かな香りのアールグレイのゼリーで
仕上げられている

そばがき
ぷるんっとした感触が絶妙。
こんなおいしいそばがきは初めて



【ランチ】 日替わり蕎麦 1,050円

せいろ 630円 つけとろろせいろ 787円 天せいろ 1,260円 鴨南ばん 1,260円
豆乳鍋 735円 メジマグロのスモーク735円 お刺身盛り合わせ 2,100円〜
自家製さつま揚げ735円 自家製笹蒲鉾 735円 出汁巻玉子630円

コース 3,675円 5,250円 7,350円(昼は要予約)


このページのURL:
http://www.totteoki.jp/shibuya/shouan.htm


2006・10 2006・11追記